2026年3月02日

はじめに
皮膚科担当の小林佑佳です。
実は多くの方がなやんでいる「円形脱毛症」。
円形脱毛症とは、突然頭皮に脱毛斑が生じ、子どもから成人まで幅広い年代に発症する病気です。
進行や回復のスピードは個人差があるため、治療の継続が必要なことも。
今回は、「円形脱毛症」について、わかりやすく説明します。
円形脱毛症の症状は?

・境界が比較的はっきりした円形の脱毛斑が突然出現する
・脱毛部分の皮膚は炎症が少なく、赤みやかゆみがないことが多い
・急速に脱毛が進行する例もある
・脱毛は頭部だけでなく、眉毛・まつげ・髭・体毛に及ぶ場合もある
円形脱毛症の病態

円形脱毛症は、自己免疫疾患の一種と考えられています。
本来、ヒトの免疫は細菌やウイルスなどの病原体を攻撃し、身体を守る働きをしています。
しかし、何らかのきっかけによって免疫が誤作動し、自分自身の組織を攻撃してしまう状態になることがあります。
このように、本来外敵を排除するはずの免疫が自分の身体へ向いてしまい、組織の機能が損なわれる病気を「自己免疫疾患」と呼びます。
円形脱毛症の場合には、毛を作る毛包の周囲に炎症が起こり、一部のリンパ球が毛包を異物とみなして攻撃してしまいます。
その結果、毛包の働きが一時的に弱まり、毛が抜け落ちたり、新しい毛が生えにくくなったりします。
特徴的な病態として:
・毛包周囲にリンパ球が集中する
・毛包そのものは破壊されず、治療により再発毛しやすい
その原因は?

円形脱毛症の原因は完全には解明されていませんが、以下の因子が関与すると考えられています。
(1)遺伝的要因
家族内発症がみられることがあり、遺伝的素因が関係するとされます。
(2)自己免疫異常
免疫細胞が誤って毛包を攻撃してしまい、脱毛が生じます。
(3)アレルギー体質
アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と関連があるとの報告があります。
ストレスから円形脱毛症になるって本当?

確かに、精神的なストレスを経験した後に脱毛が始まる患者さんがいることは事実です。
しかし一方で、多くの患者さんでは明らかな精神的ストレスと直接関係なく症状が始まっていることも分かっています。
現在では、精神的ストレスは円形脱毛症の「原因」というよりも、発症のきっかけ(誘因)のひとつとなりうる要素と考えられています。
実際、円形脱毛症の発症頻度は人種や社会情勢による大きな差はなく、患者さんの約4分の1は15歳以下で発症します。
さらに、精神的ストレスが少ないと考えられる乳児や幼児においても重症例が認められることがあります。
これらの事実から、「ストレスが原因で円形脱毛症になる」という世間一般のイメージほど、病態は単純ではないことがわかります。
近年、多くの患者さんの遺伝的背景が調べられた結果、円形脱毛症になりやすい体質(遺伝的素因)が存在する可能性が明らかになってきています。
実際には、円形脱毛症を引き起こす「きっかけ」は、脱毛症状だけを見ても特定できない場合がほとんどです。
診療の現場では、患者さん一人ひとりの生活状況や体調変化を丁寧に聞き取りながら、誘因を推測していくことになります。
精神的ストレス以外にも、ウイルス感染症、強い肉体的疲労、出産などが発症のきっかけと考えられるケースは少なくありません。
そのため、「円形脱毛症=精神的ストレスが原因」という従来の考え方は、現在では見直されつつあります。
円形脱毛症と鑑別すべき疾患
円形脱毛症と似た脱毛症は複数あり、皮膚科での正確な診断が重要です。
●男性型/女性型脱毛症(AGA)
びまん性に徐々に薄くなる、円形ではないのが特徴です。
治療方法などは、
「AGA(男性型脱毛症)の治療はいつから始めるべき?~飲み薬のベストタイミング~」
をご参照ください。
●休止期脱毛症
何らかの要因により毛髪の成長サイクルが乱れ、多くの毛髪が一斉に休止期に入ることで起こる脱毛症です。
原因としては、ウイルス感染や手術などに伴う強い精神的・身体的ストレス、妊娠・出産、抗がん剤を含む薬剤の影響、過度なダイエットが挙げられます。
原因となる出来事から2~3ヵ月後に突然抜け毛が増えてくることが特徴です。
多くの場合は一時的な脱毛で、原因が解消されたら、3~6ヵ月程度で自然に回復することが期待できます。
●脂漏性皮膚炎
→ 赤みやフケ、かゆみを伴います。ステロイド、抗真菌薬外用が必要となります。
●白癬(頭部の真菌症)
→ 鱗屑・かゆみ・毛の断裂がみられます。検査を行い、抗真菌薬外用を行います。
●牽引性脱毛症
→ 髪型による牽引が原因とされる。髪型の変更などを薦めます。
●トリコチロマニア(抜毛症)
→ 自らの手で髪の毛を引き抜いてしまい、境界不明瞭な不整形な脱毛が見られます。
●内科的疾患に伴う脱毛症
亜鉛欠乏症、甲状腺疾患や膠原病、梅毒などの疾患から脱毛がおこる可能性もあります。
これらを疑う場合には、血液検査を行います。
円形脱毛症に対する治療はどんなことをするの?
治療は範囲・重症度・経過によって選択されます。
(1)外用療法
- ステロイド外用剤:毛包の炎症を抑えます
(2)注射療法
- ステロイド局所注射:小さな脱毛斑に有効とされています
(3)点滴治療
急速に進行する成人(16歳以上)では点滴静注ステロイドパルス療法が考慮されることがあります。
ただし、広範囲、発症6ヵ月以内と限定的です。そのため進行期の受診は、早めの診察が望ましいでしょう(治療は、高度医療機関に紹介となります)。
(3)内服療法
・抗アレルギー薬
・JAK阻害薬(複数の検査が定期的に必要となりますので、高度医療機関に紹介となります)
(4)光線療法(紫外線治療)
・エキシマライト
免疫反応を調整する作用があります。週1~2回の照射が効果的と言われています。
(5)生活面のアドバイス
・睡眠や食事など生活リズムを整える
・発症を自責しない(誰にでも起こりうる疾患)
さいごに

ご紹介したとおり、円形脱毛症の原因は現在のところ完全には解明されていません。
そのため、「これをすれば必ず治る」と言い切れる治療法は存在しません。
治療を続ける中で、思うように効果が現れず、不安を感じることもあるでしょう。
しかし、円形脱毛症は自己免疫が関与する脱毛症であり、適切な治療を行うことで改善が期待できる疾患です。
脱毛斑に気づいた場合は、できるだけ早めに皮膚科を受診し、正確な診断のもとで自分に合った治療を受けることが大切です。