2025年5月07日

はじめに
皮膚科担当の小林佑佳です。
「原発性局所多汗症」という疾患はご存じですか?
子供のころや思春期ころに発症し、体の一部に限局して、緊張や集中といった精神活動により多量の汗がでる病気です。
症状が重くなってくると、
「書類が湿ってしまう」
「ワキの汗シミが気になって仕事に集中できない」
など、日常生活に支障をきたします。
特に手のひらの多汗症は発症が早く、13~14歳が平均発症年齢と言われています。
お子さんの場合、テストに集中できなかったり、体育などの授業で友達と手をつなげなかったりと悩んでいる方もいます。
時に、腋窩に見られるアポクリン腺の汗の中の脂肪酸と皮膚の表面の細菌の作用で、ニオイが気になる場合もあります。
原因は?
発汗を促す神経が人よりも興奮しやすいのではないかとも言われていますが、まだはっきりしたことはわかっていません。
ただ、重症の多汗症患者さんでは家族内発症がみられることもあり、遺伝する可能性も指摘されています。
受診の際に、何を聞かれますか?

「原発性局所多汗症」は、
・多量の発汗が
・明らかな原因のないまま
・6ヵ月以上認められ
・上の図の6つの項目のうち、2項目以上当てはまる
上記の場合に診断されます。
それに含めて、これまでの病歴や汗の出る範囲の問診をします。
次に、重症度も確認します。
重症度の判定は、自覚症状により以下の4段階に分類した、
Hyperhidrosis disease severity scale(HDSS)を用いて行うのが一般的です。
- 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
- 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
- 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
- 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
受診の前に、一度確認しておくとスムーズかもしれません。
治療について


まずは、保険適応の外用薬があることをぜひ知っていただきたいです。
「脇の多汗症」に対して、
2020年にエクロック®ゲル
2022年にラピフォート®ワイプ
「手のひらの多汗症」に対して、
2023年にアポハイド®ローション
が保険適応のある外用抗コリン薬として発売されています。
こちらの塗り薬はいずれも抗コリン薬と言われ、エクリン汗腺(※)が交感神経から伝えられる汗を出す指令を受け取れないようにブロックすることにより、発汗を抑えることが期待できます。
※エクリン汗腺は、皮膚の中にある汗をつくる器官のひとつです。
これらの薬剤には即効性はなく、徐々に効果を感じられるものです。
1日1回、継続的に塗ることで効果を発揮します。
忘れないように毎日決まった時間に塗りましょう。
(アポハイド®ローションは就寝前に使用してください)
塗り始めてから、数日から2週間くらいで効果を感じる患者さんもいれば、効果を感じるまでに時間がかかる患者さんもいます。
まずは、6週間を目安に塗り続けましょう。
また、ニオイに関しても、外用薬がございますので、ご相談ください。
他にも内服薬(プロバンサイン®)もありますが、口の渇きや眠気などの副作用もあります。効果の程度にはばらつきがあり、外用薬の補助的な位置づけになります。
保険治療以外のものはありませんか?

ずばり、あります。
紹介した保険適応の外用薬を使用し、赤くなる、かゆくなる、湿疹がでる場合があります。
また、抗コリン作用から、口の渇き、尿が出にくい、視界がぼやけて、光をまぶしく感じるなどの副作用が出る場合は、使用をやめてください。
また、処方適用年齢に満たないお子さん、緑内障や前立腺肥大症の方、患部(ワキや手のひら)に湿疹・皮膚炎などがある方、妊娠中・授乳中の方は使用できません。
その場合、保険適応外のお薬となりますが、当院ではD-seriesを採用しています。
D-seriesについて


毛穴を引き締め、汗を抑えながらニオイの原因菌をしっかり殺菌すると言われております。
(有効成分:乾燥硫酸アルミニウムカリウム/イソプロピルメチルフェノール)
朝ぬるだけで長時間、夜まで効果が持続し、ぬり直しの手間がありません。
スティックタイプとクリームタイプをそろえており、希望に合わせて購入が可能です。
こちらも即効性はなく、長期間使用することで、徐々に効果を感じられるかと思います。
こちらのD-seriesは、保険適応のお薬が使えない方だけでなく、気軽に試してみたいという理由で選ばれる方も多くいます。
さいごに

ワキ汗、手汗のお悩みについてお話しました。
中々「汗」について、周囲には相談しにくいことと思います。
ドラッグストアで購入したものを使う方もいると思います。
体質改善を試みる方もいると思います。
その悩み、一度当院皮膚科へ相談してみてください。
あなたの悩みがひとつがなくなるかもしれませんよ。